まず、この一首
君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ北原白秋『桐の花』
鑑賞:雪に「におい」をつける
きみを帰す朝、石畳を踏む「さくさく」という音。そこへ「雪よ、林檎の香りのように降れ」と呼びかけています。雪は冷たくて白いものですが、この歌では甘くて少し酸っぱいりんごの香りを持たされています。そのふたつをつないでいるのは「さくさく」という擬音語で、読み手の頭の中では食感と、足の感触が言語の上でつながっています。
この歌では雪をりんごと結びつけることで、その双方にあたらしい感触をもたらしているといえます。紛れも無い雪の名歌です。
作ってみる
白秋の歌の仕組みを分けると、三つの段階になっていると考えられます。
- 冬の「もの」を一つ置く(雪)
- そのものに、目以外の感覚で触れる(踏む音の「さくさく」)
- その感覚を橋にして、冬とは関係のない別のものへ渡る(林檎の香り)
自分で書くときも、この順番で考えられます。まず冬にしかない「もの」を一つ決める。次に、それを見るのではなく、聞く、かぐ、さわる、味わうとどうなるかを考える。最後に、その音やにおいが、ほかに何を思い出させるかを探す。
ただ最初はちょっと難しいかもしれません。そういった場合、まずは「ような」を使った歌をつくるところからチャレンジするのはどうでしょうか。その技法は直喩(ちょくゆ)と呼ばれます。
たとえば、こんな組み合わせから考えられます。
- 子どものような雪
- 心のような霜柱
- 刃のような北風
一見異なるふたつのものを結びつけることで、普段は意識しない感触が生まれます。雪から雪らしいもの(白い、冷たい)へ進むと、だれもが知っている冬で終わってしまいます。雪から林檎のように、ふだんは並ばないものへ渡ったとき、冬があたらしい手ざわりで立ち上がるのです。
冬の「もの」を一つ選んだら、感覚で、別のものとつないでみよう。音やにおいが橋になると、雪も霜も、あたらしい手ざわりで立ち上がってくる。
次に読みたい一冊
最後に紹介した「直喩」の魅力がふんだんに詰まった一冊です。ぜひ美しい比喩にふれてみてください。

直喩で、最短距離を走ってくる
toron*『イマジナシオン』
toron*の短歌は、短歌を読む人なら誰もが通ってきた、とびっきりの比喩の、その力を思い出させてくれる。
推薦文:武田ひか 推薦文を読む →